左官の使命

左官の使命
 野丁場左官工事において設計図書から大幅に左官の塗り壁が消えたのは昭和50年頃からでありる。
現在の野丁場左官工事に於いては他業種の仕事の手直し工事等が殆どで本来の左官工事でないものが多い。
町場左官工事においては繊維壁からビニールクロスに代わり、現在では壁を塗ることは殆ど無く基礎、外構工事等で糊口をしのいでいる状態であると仄聞している。このような現状では左官の将来に夢、ビジョン語ることは出来ないと思うのです。
 建築は、建築の合理化、効率化、工業化で湿式工法から乾式工法に大きく変化を遂げてきた。
建築の使命は建造物によって使用目的はそれぞれ違うが共通しているのは使う人、住まう人が元気よく、快適に健康に時間を過ごせる空間を提供することであると思う。
 今日本の自殺者は昭和53年~平成9年迄は2万人台推移し、平成10年から急増し3万人の大台を越える世界一の自殺大国であり、昨年は32249人を数える。その原因は様々なようであるが、中でもうつ病の占める比率が高いと聞く。
 「うつ病100万人を超す」 10年で2.4倍」(読売新聞、2009.12.4日の一面記事である)
 また同日の読売新聞の人生案内欄に40代の主婦が「新居に引越しうつ発症」の題で相談している。「数ヶ月前マンションから戸建て住宅に転居し、その後すぐにうつになりました。生活の変化が大きなストレスになったのでしょう。転居を後悔する毎日です。心療内科を受診。抗うつ剤を服用し、多少回復しつつあると思う。部屋は荒れ放題。料理もまともに作れず、子供の遊び相手にもなってやれません。・・・」
 それに対する精神科医の回答は、「転居後にうつ病になる人は非常に多く、 「引越しうつ病」 という特別の名前で呼ばれるくらいです。あなたの場合もこれに該当しそうです。・・・」とあった。
 やっとの思いで家を購入したにも関わらずうつ病になるというおかしな現象が日本の建築に発生しているのである。
 平成15年にシックハウス対策の改正建築基準法が施行されているが、シックハウス問題、室内空気汚染問題が改善されていないということであると思う。
 左官の塗る土壁、漆喰壁、珪藻土壁は室内を快適湿度に保持して抗酸化空気を作り住まう人を元気に、健康にしてきた歴史ある伝統の壁であり、まさに日本の住文化であると思う。
 文化とはその国の民族をその過酷な気候風土から命と健康と精神を守ってきたものである。
 建築における左官の役割、左官の使命もそこにあると思うのである。
 かっての日本の建築にはシックハウス問題は存在しなかったのである。
日本人の命と健康と財産を守ることの出来る、現代に適合した本物の左官の塗り壁を研究し提供していくならば左官の未来はより一層明るくなっていく事であり、この厳しい不況に打ち勝ってもいけるものと思う。