左官の現状と未来 住まいを豊かに
左官職人に夢を与える「石灰系珪藻土壁」
◆設計図書から消えた塗り壁
現在の野丁場の左官工事においては、設計図書から左官本来の塗り壁が消えて皆無に近いものが多くなっています。町場においても外部の塗り壁仕上げが少なく、内部の塗り壁も和室1部屋位になっているのが現状ではないでしょうか。
野丁場において設計図書から塗り壁、モルタル塗り、ドロマイトプラスター、漆喰塗りが消えたのは昭和50年前後の事です。建築の合理化、工業化、効率化の為に手間、工期の掛かる左官の塗り壁は僅か2,3年の間に設計図書から消えてしまったのです。
化粧仕上げとしてコンクリート打放仕上げの普及、又、杉板パネルから、南洋材の合板ベニヤパネルの普及による型枠精度の向上により、建築工事共通仕様書によるコンクリート打ち放し仕上げの下地調整で、即その上に仕上げが出来るように設計されまして、左官本来の技能である塗り材を厚く塗る左官工法は必要ないとされてきたわけです。
町場に置いては塗り壁が少ないので、基礎工事、ブロック工事等をやることにより何とか仕事を確保してきたのであります。塗り壁が設計図書から消えて左官業者は激減しましたが、皆無にはならなかったことは伝統ある左官技能の持つ技能の凄さであると思います。しかし、若い後継者は少なくなってしまいました.
塗り壁が設計図書から消えて一番の問題点は、日本の建築文化の一部を担ってきたとも言える左官の塗り壁の技能が、維持、継承できなくなってきていることであります。左官の技能を習得するには、壁を適度の厚みで塗り込んで覚えるしかありませんし、実際の現場において塗り壁仕上げをして覚えるしか方法が無いと思います。
現在の左官がやっている仕事の多くが下地調整(左官、建設業界では誰も意味の判らない補修といってきました。最近では設計業界でも補修と言う設計事務所が多くなってきています)と言っているモルタルの薄塗りでは左官技能の維持、継承、習得は出来ないことであります。
左官工法において、厚みある壁を塗り仕上げる鏝の上げ浦鏝(厚みがあり素人には使用できない)は、ゴルフに例えればドライバー、アイアンであり、薄塗りを仕上げる鏝の角鏝(厚みが薄く素人でも使用できる)はパターとも言えると思います。現在の左官のやっている仕事の多くを占める下地調整(補修と呼ばれている)は、パターゴルフと同じで素人にもそれなりに出来る仕事でもあります。
長年、後継者を育成してきまして困った事は、入ってすぐに研修生に辞められてしまうことであります。研修生に左官とは壁を塗る職業ではないのですかと、質問されて答えに困ったことも数多くありました。
野丁場の左官が、現在やらざるを得ない仕事の多くは、傷埋め、隙間埋め、Pコーン埋め、サッシュモルタル詰め、伸縮目地棒取付け、下地調整等殆どが他職種の仕上げの手直しであり、又各種仕上げ工事下地の仕事であり、左官本来の壁を厚く塗って仕上げる仕上げ工事は皆無に近く、研修生には先輩のやっている現在の左官工事が、魅力が無いものと写ったのではないでしょうか。
厚く壁を塗る仕上げが皆無の現在の左官工事では、ゴルフに例えればパターゴルフとも言えるでしょう。パターゴルフではナイスショットでお客様に感動を与えることも出来ず、自分でナイスショットの快感も体感することも不可能であり、まったく夢も希望も無いものと言えると思います。
◆国土交通省のシックハウス規制
今年左官業界への追い風の一つとしまして、第154通常国会で建築基準法等の一部が改正され、シックハウス規制の導入が平成14年7月12日までに公布されています。施行日は公布日から一年以内です。
1.クロルピリホス(有機リン化合物)を発散させるおそれのある建築材料の使用禁止。
2.ホルムアルデヒドを発散するおそれのある建築材料の使用制限。
の二つであります。
昭和50年頃まで左官業界は、建物中の壁を土壁、ドロマイトプラスター、漆喰、石膏壁、繊維壁などで塗ってきました。シックハウスの原因は、石油から作られた化学物質で出来ている新建材が原因と言われていますが、左官の塗り壁は、石膏を除き自然素材であり、日本の気候特有である夏の高温多湿を防ぐことの出来る壁材だったと言えると思います。
兼好法師が徒然草で「住まいは夏を旨とすべし」と、いみじくも言ったように、夏の暑さ、多湿を防ぐことを目的に日本の居住環境の建築文化は発達してきたのであると思います。それがかっての多くの日本人が住んでいた、木、土、草、紙から出来ている居住環境ではなかったでしょうか。
現在の居住環境は冷房で暑さは防げると思いますが、高気密でもあるため湿気が逃げにくく高い湿気、化学物質のガスが充満するシックハウスに代表される劣悪な居住環境であると思います。
「米国では、昭和50年頃にシックハウスビルディング症候群が紹介され、本邦にも昭和62年にはシックハウスビルディング症候群が報告されており、平成4年にも詳しく紹介されております。また一般家庭住宅に同様な問題が生じたために、本邦ではシックハウス症候群とも呼ばれているが同じものと考えてよい。米国ではビル、ホーム関連疾患とも呼ばれている」(宮田幹夫氏、「シックハウス対策」より)シックハウスに詳しい北里研究所病院の宮田幹夫氏は有機リン化合物(クロルピリホス)のガスはサリンと類似の毒ガスであると警告を発しています。
日本の自殺者が年間3万人を超える現象、青年の精子の減少、子宮内膜症の増加、青少年の異常行動などがマスコミで指摘されている現実があります。
居住環境が住む人の心身に与える影響を真剣に考えてみたいものです。
◆ 新しい土壁
日本の気候風土に適し、住む人の健康を守る、癒す、育む居住環境は、日本の建築文化の英知でもある土壁が最適であると思うものですが、しかし、コスト、現在の左官人口、技能を考えますと木舞の土壁の復活は難しい点があると思います。
自然素材、調湿性があるということで漆喰の薄塗り壁も人気がありますが、本来の漆喰壁の働きは土壁の表面を保護する働きであり、土壁と一体となって高い調湿性を発揮してきたのであります。漆喰の薄塗り壁だけでは日本の気候特有の高い湿気は防げないものと思います。
今新しい土壁としまして10数年前開発された石灰系珪藻土壁が関心を集めております。内壁用は石灰の中にブレンドされた炭の5000~6000倍とも言われる多孔質が高い調湿機能を発揮し、かっての土壁に匹敵する調湿機能で、マイナスイオンを生成し、結露とカビの発生を防止する機能が高いことが知られています。外壁用は塗り厚み6mmで防水機能があり、酸性雨に強いので中性化から建物を守る機能があります。
私は石灰系珪藻土壁なら居住環境のシックハウス問題、建物の中性化問題、左官の技能維持、継承の問題を解決できる塗り壁であると考えています。内部用は塗り厚み3mmですが調湿機能が高く室内湿度を、相対湿度60%以下40%以上に保ち、室内空気をマイナスイオン化にする機能があります。今高気密住宅が困っている、結露防止、カビの発生防止の機能も高いものがあります。
あらゆる下地に施工可能でマイナスイオンを多く生成し、中和により悪臭、異臭、化学物質のガス(プラスイオン)消滅させる機能があります。石灰系ですので水に強く、湿気の多い浴室、地下室も施工可能で、特に浴室に施工しますと湯気で壁が濡れない壁になり大量のマイナスイオンを生成しますので爽やかな浴室にしてくれます。
茨城県では15年前の県営アパートがひどい結露と、黒かびの発生で対策の仕様がなく困っていましたが、現在72世帯に石灰系珪藻土壁をコンクリートの壁に直接施行して結露とカビの発生を止めることに成功しています。石灰系珪藻土壁ならRC造において内断熱工法無しで結露とカビの発生を防げるものと思います。
石灰系の塗り壁ですので施工に際しては気温、湿度が微妙に影響して施工が非常に難しいのですが、コンクリート打放仕上げの下地調整等、比較的簡単に覚えられる塗り壁しか知らなかった若い職人を休日返上で技能習得に打ちこませる程の面白さが石灰系珪藻土壁にはあるようです。
石灰系珪藻土壁は、カラーも豊富でパターンも職人の感性で自由にデザイン出来ます、下地ではなく仕上げの塗り壁であると言うことで、塗り壁が本来持っている醍醐味、塗って仕上げる楽しさ、技能を見て貰える嬉しさ、お客様に喜んで貰える楽しさが味わえる壁として、若い職人を夢中にさせてくれる魅力と夢がある塗り壁です。
同時に、今社会問題になっているシックハウス問題を解消し、住む人の健康を守り、癒し、育める壁として、又、土壁ですので火災から住む人の命、財産を守れるものと信じるものです。左官業界の未来の為に、後継者に明るい夢と未来を語れる壁として新しい土壁、『石灰系珪藻土壁』の普及に邁進していきたいと考えております。
◆ 塗り壁の普及には
情報化時代を迎えて最終ユーザー、住む人がいい家造りの情報を手に入れ易く、情報を知る時代を迎えております。
左官業界にはこれまで住む人の為に良い壁を提供しょうとする考えは無く、作業性の良い、塗りやすい、クレームの少ない壁材をメーカーに求めてきたのではないでしょうか。又、今までの居住環境は居住性重視ではなく、デザイン、カラー等が重要視され、素材もコンクリート、鉄、ガラス、アルミ等の工業製品、出来ればなるべくクレームの少ない素材(自然素材はひびが入る、割れることもある素材が多い)が多用され、命あるものが住むという、居住する人の為という観点が少なかったように思うのであります。
これからの時代、住む人の為に最適の居住環境を提供できる壁材は何であるかを調べ研究することが大切であると思います。
例えば珪藻土壁には珪藻土を固める素材として、大きく分けますと石灰(漆喰)系、石膏(硫酸石膏)系、樹脂系の、三つがあります。左官屋自身が最終ユーザーに良い居住環境の情報発信が出来る知識を身に付けることが何よりも必要であります。それには日本の気候風土に適合した、時代にあった壁材をまず塗ってみて、自分で住んでみて、体感して見ることが大切であると思います。
左官の技能は設計図に描けない多次元の曲線の空間を提供できる技能でもあります。
建築設計団体、行政機関、建築業界、ハウスメーカー、大工さん、一般ユーザー等と勉強会を開催して、新しい土壁珪藻土壁の、本物の珪藻土壁とは何であるかを共に学び、塗り壁の啓蒙を図っていくことも大切でしょう。
茨城県では石灰系珪藻土壁のモデルハウスをオープンし、官庁、設計事務所、一般ユーザーに石灰系珪藻土壁が生成するマイナスイオンの空気を体感して頂いております。
情報化時代を迎えてインターネットを利用したHPなどでのPRも大切で重要ですが、本物の情報は口から口へ伝わるといいます。口コミも大いに利用したいものです。打つ手は無限にあると思います。