女子の武士道
今回 どんな状況でも女性が凛として生きる指針、「女子の武士道」の著者
石川真理子氏の取材をうけ、雑誌「きらめきプラス」に弊社が掲載されました。
石川真理子の人物探訪 「どんな状況でも凛として生きるための、(女子の武士道)の著者」
きらめきプラス Vol.47 夏秋号掲載
株式会社根子左 代表取締役 根子 清氏
日本の伝統建築「珪藻土壁」で子ども達の未来を守りたい
高度経済成長期以降、日本の住環境は一変しました。合理性を追求した現在の建築が心身の健康に深刻な影響を及ぼしていると警笛を鳴らすのは、左官ひと筋五十年、株式会社根子左代表取締役の根子清さんです。先人から受け継いだ日本の伝統建築を守ることによって、青少年の未来を守りたい。根子清さんの信念をお伝えいたします。
左官は日本の伝統
古来、建築は、その土地に適したかたちで発展してきました。高温多湿の日本における建築とは、木と土と紙を材料に、通気性があり適度な湿度を保つ、いわば自然と一体となった【呼吸する建築】です。
「現在の建築はいうなれば窒息しているようなものです。気密性が重要視されたために、本来日本の気候に適している住環境が失われてしまいました。一年中でも特に不快になりがちな梅雨から夏にかけての時期には、日本の伝統建築は真価を発揮します。木も紙も土も呼吸する素材ですが、特に土壁は湿気を吸い取るのです。ジメジメした感じが軽減されると気温が多少高くても不快ではありません。私が手掛けた住まいで暮らすお客様には、冷房や暖房をほとんど使わなくなったという方がずいぶんいらっしゃるんですよ」(根子清さん・以下「 」 は根子さん談)
「左官」は平安時代に宮中の壁を塗る職人に対して授けられた官位という説があります。千二百年以上の伝統ある職業なのです。しかし建築の近代化と共に減少し、昭和五十年を境に激減しました。建築の工業化や工法が省略化に伴い塗り壁が使われなくなったためです。最盛期には約三十万人いた左官は、今やわずか五万人に過ぎないということです。
「左官の仕事は重たいコテを使いながら、壁を『塗る』のではなく『くっつけていく』のです。実施の経験が不可欠で技術を身につけるのには最低五年はかかります。非常に地味で忍耐が必要ですから現代の若者は敬遠します。それでも私は土壁を使った日本の伝統建築にこだわらずにはいられないのです。今の住環境は現代人特有の疾患の大きな原因のひとつとなっていると考えているからです」
現代病の原因となっている可能性は否めない
住環境が原因の疾患といえばシックハウス症候群が挙げられます。しかし根子さんは、それだけに留まらないといいます。
「近年、青少年の異常犯罪が多発しています。異常心理、異常行動を指摘する専門家は後を絶ちません。あるシックハウス問題を研究している医学者は、化学物質の環境ホルモンが幼児期の子供の正常な脳の発達を阻害することや、青年の精子減少の原因にもなっていると警告しています。帝京大学医学部の調査では、体育会系の大学生の精子を調べたところ、三十三人が精子が少なく不妊症と断定されたということです。正常者は、なんとたった一人だった。フロリダで雄のワニの生殖器が環境ホルモンによって小さくなり生殖に影響が出ていると報道されていましたが、このままでは日本の青少年の未来が危ういといえます。アレルギーやアトピー性皮膚炎はもちろん女性の子宮内膜症、心身症、うつ病などの精神的な疾患も大いに関係あると私は考えています。現代建築の壁は壁紙とかクロスなどと称していますが素材はビニールのビニールクロスが大半です。ビニールクロスは吸湿性がないため高湿になりますし、ホルムアルデヒド、クロピスホス、クロルピリホスなどの有害な化学物質を発生させます。実はその中にはサリンと類似した成分が含まれているのです。高気密住宅ではカビやダニ、シロアリも避けられません。これらが総合的に私たちの心身に影響を及ぼしているのです」
自然素材の見直しから、近年はログハウスなどを好む人も増えています。しかし、木だけでは不十分で、土壁があってこそ快適な空間が実現できるといいます。
「木が人に優しい、健康にいいのは確かです。しかし日本人は木の壁だけの建築ではなくて土の壁を発明しました。それには三つの理由があると考えています。まず第一に、日本人は自然を敬い、神が宿ると大切にしてきました。無駄に木を伐採せず守り育て自然と共存しようという思いから、木と土を組み合わせたのではないでしょうか。第二に、日本の温帯モンスーン地帯特有の気候条件下では、高温多湿を防ぐためには木にも増して土が適していた。土壁は室内の湿度を40~60%の快適な湿度に保持します。この機能があるためにカビやダニの発生を防ぐのです。第三には土は燃えない素材であることです。火災から人と財産を守ってきたのでしょう」
かつての住環境は心を育む教育の場でもあった
戦後は住宅に強度も求められてきました。さらに最近では、安心・安全ということが重要視され、幼い子供が危険な目に遭わないように配慮されます。
「日本の住居が変わった最初は明治時代のことで、煉瓦やコンクリート、鉄骨造りが導入されました。ただ、建物の中の壁は土壁、漆喰壁など従来通りの自然素材を使っていたので、それほど住環境に大きな変化をもたらしはしませんでした。しかし戦後、特に昭和五十年ごろを境に工業製品、鉄、コンクリート、ガラスが主要な建築材料となり、内壁にはビニールクロスなどの化学物質が多用されるようになりました。壊れにくい、傷がつかない、強度もある。木も土も紙も乱暴に扱えば壊れますし、傷もシミもつきやすいですね。それが敬遠されたのです。しかし、これらの自然素材ならではの吸放湿機能によって高温多湿の気候から人々の健康を守ってきたのです。それに、このように傷つきやすく壊れやすいからこそ、子供の頃から物を大切にすることを体で覚え、思いやりの心や我慢することまでも育まれた。心を育む教育の場でもあったのです。合理化によって失った物は実に大きいと言わねばなりません」
土壁の「もろさ」を克服した珪藻土壁で伝統を繋ぐ
しかし、どれほど土壁が適しているとされていても、時代を逆戻りすることはできません。現代の住宅事情を慮っても、土壁の弱さやもろさはデメリットになってしまいます。長年、左官を生業としてきた根子さんは、左官としての誇りをかけて珪藻土壁を導入し、普及に努めることにしました。
「珪藻土壁が誕生したのは二十年前のことです。伝統的土壁・漆喰壁の機能と現代の住宅事情に適した強度を併せ持つ、たいへん優れた素材です。珪藻土とは太古の海に棲息していた十万種ともいわれている単細胞の植物性プランクトン(ケイソウ)が死んで海底に堆積して化石となった物をいいます。ケイソウはガラスと同じ珪酸の殻で覆われていて、そこに大小様々な無数の孔が規則正しくあります。この孔の数は木炭の数千倍です。太古の地球には酸素が無かったため、ケイソウなどの植物性プランクトンや珊瑚が光合成によって酸素をつくり、オゾン層をつくっていたとされています。その頃の地球はほとんど海だったことから、珪藻土は無尽蔵にある。それで昔から七輪やコンロ、耐火煉瓦に使われていました。また、濾過材にも使われています。特徴としては、軽くて火に強く、超多孔質構造の安心な自然素材ということです。この特徴によって有害物質や煙草の煙、臭気などを吸着・分解し、室内の気になる匂いを消して空気を清浄にしてくれます。私たちにとって快適な湿度は40~60%ですが、これを保持して結露やカビ、ダニなども防止します。土壁はかなり厚く盛らなければならないのですが、珪藻土壁ならわずか三ミリでいいというのも素晴らしい点です。ただし、珪藻土壁といっても、樹脂や石膏を添加したものがあり、これらは土壁の特性を備えていません。樹脂無添加の珪藻土壁である必要があります」
子ども達に豊かな未来を与えたい
左官業が激減した中でも、樹脂無添加の珪藻土壁の普及に取り組んでいるのは全国でも少数です。根子さんの会社はそのうちの一社なのです。
「実は私も子供の頃から二十代前半までは体が丈夫ではありませんでした。それだけに心身の健康ということに対して真剣にならざるをえないんですね。また、我が国の歴史と伝統に心から誇りを抱いています。現在の日本のあり方、日本人のあり方には不安を抱かざるを得ません。犯罪や事件もさることながら、自殺者の発生もまだ年間三万人近くにもなるのです。こうした問題は伝統文化の維持継承を忘れ、効率化、合理化、経済効率至上主義でやってきた戦後日本人に対する日本文化の警告とも思います。今こそ先人の叡智に学ぶべきです。私は生涯かけて左官を通して日本の建築文化、伝統文化の素晴らしさを正しく継承し、伝えていこうと思っています。それが二十一世紀を担う子供達を守るために必要不可欠なことと確信しています」
【取材後記】
根子さんの会社で珪藻土壁のモデルルームを拝見しましたが、まるで森の中にいるような爽やかさで驚きました。このような住宅が増えれば心身の健康はもとより環境も守れるのではないでしょうか。伝統と環境、いずれも子供達へ継承していきたいものです。