修繕大工・玄ぞうさん

日本住宅新聞2008年7月5日より


独立行政法人日本学術復興会の特別研究員・白井裕子氏のレポート

昨年6月に実施した、現建築基準法に対して大工棟梁122人(平均年齢61.8歳)に聞いた回答である。

60歳以上の熟練大工棟梁は

建築基準法の木造ルールに対して

「伝統的な大工技術がすたれる」

「意味の無い規則が多くなってきた」

「木造の基本が守られていない」

プレカットに金物、集成材に金物と使う工法は木造住宅の寿命を縮めると考えている事が分かった。

伝統的な工法は愛着があり、素晴らしいと

白井氏は

「今の基準法は{玄ぞうさん}とか{修繕大工}といった技術の低い人でも、誰が作っても壊れないように、安全なように・・・とルールが作り出された結果

逆に高い職能を持った方々が非常に不利になっていると、大変残念な結果になっていると」

コメント

これは左官業界にも当てはまる事である。

左官の技能習得には長い期間を必要とする。これは大工、建具等歴史ある伝統的な職では皆同じであろう。

伝統的な建築技能の業界が衰退して久しい。

左官業は何故衰退したのだろうか


外部要因としては

?学者により学問として建築から左官技能を無くされた。

左官の塗り壁、塗り床を無くせば建築の合理化が出来るとある

「内田祥哉編著・建築施工より」

?設計図書から左官に塗り壁、塗り床が抹殺された

現在の設計図書には塗り壁がない。壁はコンクリート打ち放し仕上げであり、左官技能を必要としない工法である。


内部要因としては

?誰でも塗れる簡単な塗り壁を左官業界が採用した

左官の塗り壁の原点は土壁、漆喰壁であり、施工が難しい壁である。

又、先人が長い年月をかけて作り上げた日本の住文化であり、英知である。

塗り壁の製造が左官からメーカーに移行した時に、時代の要請もあり、安く、早く、簡単に低技能でも出来る壁として、繊維壁が誕生した。

繊維壁は素人でも塗れる壁であり、左官の誇りの喪失、技能の低下は避ける事が出来なかった。

左官業界は一時繁栄を謳歌したが、繊維壁は、本物の壁ではなく、日本の気候風土に適合せず、あっという間に衰退した訳である。


現代は地球環境重視、健康重視の時代である。

健康に良い壁として土壁・漆喰・珪藻土壁が注目を集めている。

時代が左官の塗り壁に追い風を吹くようになった。


しかし、メーカーが開発した健康にいいと宣伝する塗り壁、特に漆喰・珪藻土壁の殆どが、素人でも、誰でも塗れる壁として販売をされているが、居住性能の低いものが多いのが現状である。

メーカーが重視するのは作業性であり、居住性能は二の次のようである。

残念ながら左官業界も塗り壁の採用には作業性を第一に重視するほうが多い。


壁の目的は住まう人の健康、命を守り、生活を快適にする為にあると思う。

そこに左官の仕事の尊さもあり、誇りも生まれるのである。

だれでもヌレールとか、奥様でもヌレールといった壁が本当に日本の過酷な気候風土から、住まう人を守ってくれるものか疑問に思う。


時代は本物が求められていると思う。

今までの早く、安く、簡単にできるものから、長い年月をかけてきた日本の歴史ある職人文化が生み出す、作り出すもののみが使う人、見る人に感動を与えてくれるのである。

感動は誰でも出来ないから、生まれるのだと思う。

人は職人の技、プロの技に震えるような感動を貰うのである。

そしてその感動にお客様が高い報酬を払うのである。

又、職人も自分の仕事に震えるような感動を与えてもらうのである。

職人であるならば、プロであるならば、本物を創るべきであり、売るべきである。


石灰、漆喰で固めた珪藻土壁「エコ・クイーン」は施工が難しいという事で左官から嫌われている。

しかし、「エコ・クイーン」は住まう人に感動と快適を与え、若い職人に震える様な感動を与えられる壁である。

若者には高いハードルを与えるべきであり、若者も高いハードルに挑戦して欲しい。

若者だけでなく左官職人は難しい壁に挑戦するべきであろう。

そこに震えるような何ものにも代えがたい感動がある筈である。

簡単で、誰でもできるものに感動はない。

感動を与える、得るには多くの月日を要する。

若者よ易きに走るな、苦しい事、厳しき事、難しい事に挑戦せよ。

そこに感動があるからである。


コンクリート打ち放し仕上げ、ガラス、鉄、アルミ等工業製品で出来た、現代建築は住まう人に、見る人に震えるような感動を与える事が出来るのだろうか。

後世の人の評価に耐えられる、感動を与えられる建築をつくりたいものである。