挑戦

日経 春秋 2013.8.7
イタリアの作曲家ヴェルディは「アイーダ」「椿姫」などのオペラで知られる
中でも指揮者や歌手が入念に準備する名作が「ファルスタッフ」だ
道楽者の老騎士と町の人々の人間関係を軽快に描いたこの喜劇は
音楽と台本が見事に調和した円熟の作品といわれる
完成は1893年。ヴェルディ80歳の頃だ
「いつも失敗してきた。だからもう一度挑戦する必要があった」と創作の動機を語ったという
後年、その言葉を知って心打たれたのが大学生のピータードラッカーだった
いつまでも目標を持ち続ける姿勢を教えられたと書いている
(プロフェッショナルの条件)
「経験が豊かになると、それが作品にも投影する」とドラッカーは言った
1989年80歳を目前にして著した「新しい現実」は国家の枠を超えた
経済の相互依存関係や技術革新などの世界の変化に目を注ぎ
ソ連の崩壊も洞察した
年齢を重ねるごとに考えを深め、作品の完成度を高めていった様子はヴェルディと重なる
体力は落ちても思考力や創造性は磨ける
二人の歩みが示している
古希を目の前にして、ふと後何年と年月を数える時がある
肉体も無理をすると悲鳴を挙げ、回復が遅くなった
二人の偉人には比べるべき何もないが、
挑戦し続ける強い意志と心だけは持ち続けたいものだ