国交省のコンクリート打ち放し面補修の見解

コンクリートの打ち放し仕上げの左官から見た問題点
★ コンクリートの打ち放し仕上げ、打ち放し面補修とは何か
 コンクリートの打ち放し仕上げは公共建築工事標準仕様書(以下 「標仕」)の第6章コンクリート工事 2節 普通コンクリートの品質 6.2.5コンクリートの仕上がりに
表6.2.3として打ち放し仕上げの種別が、表6.2.4にコンクリートの仕上がりの平たんさの標準値が表示されている。
 打ち放し仕上げの種別はA種,B種,C種の3種類があるが、平たんさの標準値には種別が記載されていない。
打ち放し仕上げA種は目違い、不陸等の極めて少ない良好な面とする。
打ち放し仕上げB種は目違い、不陸等の少ない良好な面とし、グラインダー掛け等により平滑に調整されたものとする。
打ち放し仕上げ下C種は打ち放しのままで目違い払いを行ったものとするとある。
 又打ち放し仕上げのコンクリート表面は型枠セパレートの穴、砂じま、へこみ等をポリマーセメントペースト等で補修し、コンクリートの突起物を取り除いて所要の状態にするまでがコンクリート打ち放し仕上げである。
コンクリート工事 9節に型枠6.9.6に型枠緊張材にコーンを使用した場合は、コーンを取り外して保水剤又は防水剤入りのモルタルを充填する等の処置を行うとある。
又公共建築工事積算基準(以下「積基」) 第2編、第一章、第5節 型枠に打ち放し面補修が記載されている。
(1) 適用条件及び留意事項
イ. 建築構造物等のコンクリート打ち放し仕上げにおける打ち放し面補修及び型枠目地棒に適用する。
(2) 細目工種
表A 1-6-1
打ち放し面補修A種の仕事内容   コーン処理
打ち放し面補修B種の仕事内容   部分目違い払いコーン処理共
打ち放し面補修C種の仕事内容   全面目違い払い
とあり、その仕事は特殊作業員がするとあり、歩掛りがきめられている。
特殊作業員とは
①相当程度の技能および高度の肉体的条件を有するものとし
主に軽機械の運転操作、コンクリートポンプ車の筒先作業等がある。
②その他、相当程度の技能及び高度の肉体的条件を有し、各種作業について必要とされる主体的業務をおこなうものとある。
 
国交省のコンクリート打ち放し仕上げはコンクリート工事、型枠工事の範疇にあり、グラインダー掛け、セパレーターの穴、砂じま、へこみ等をポリマーセメント等で補修して平滑で良好な面にするまでが打ち放し仕上げの範囲である。
★ 国土交通省の打ち放し面補修の見解
 
 「積基」でコンクリート打ち放し面補修としてA種 B種 C種があり、その仕事内容はコーン処理、目違い払い、施工する工種は特殊作業員である。
コンクリート打ち放し面補修は左官技能者がする工事とはなっていないのである。
 このように国土交通省のコンクリート打ち放し面補修の見解はコーン処理と目違い払いであり、現在、設計業界、建設業界、左官が補修と称して施工しているコーン処理、サンダー掛け、部分薄塗り、全面薄塗りとは全く違う見解である。
 又疑問に思うのはコンクリート打ち放し仕上げを仕上げといいながら施工する以前から打ち放し面補修を認めているという事はコンクリート打ち放し仕上げは仕上げではないという事だろうか、大きな矛盾を感じるものである。
 
コンクリートの仕上がりの平たんさの標準値の表には運用部位による仕上げの目安として、化粧打ち放しコンクリート、塗装仕上げ、壁紙張り、仕上塗材仕上げ等各種仕上げのそれぞれに標準値が決まっている。
打ち放し仕上げA,B,C種、種別の表には、適用部位の仕上げの目安が表示されておらず、A、B、C種がどの仕上げの下地となるのか決められていないのも難しい問題である。
★ 仕上塗材仕上げ(吹付)の下地調整 塗り厚み・歩掛かりの問題
 仕上塗材仕上げ(吹付)の下地調整は目違いはサンダー掛け等で取り除き、下地調整塗材C-1、C-2、CM-1、CM-2を全面に塗り付け平滑にするとあり、厚みは1mm以下、1~2mm、3~10mmの3段階有り使用材料も違う。又厚み3段階では歩掛りは決められない。
厚みが違い、仕様材料も違えば当然歩掛りが違ってくるはずだが積算も発注も、下地調整(一般には補修と称している)とあるのみで厚みの記載は無い。
 
左官業界は仕方が無いので左官業者のほうで厚みを決めて積算している現状がある。
この場合厚み10mmの積算はまず不可能であり、通常は厚み5mmで積算し施工している。
この場合厚み5mmで仕上がる打ち放し仕上げは殆ど無く、コンクリート下地の躯体修整の問題が100%発生し躯体修整の費用の点で精算時に良くもめる問題の原因となっている。
★ 公共建築工事積算基準における左官の問題点
 
 「積基」第15節 左官工事 標-15-1 細目工種には各種仕上塗材仕上げの記載はあるが、下地調整の欄は無く、複合単価と思われるが、摘要欄に下地調整が無いのは疑問である。
又、「積基」第17節 塗装工事2.参考歩掛かり 「標仕仕様」 表RA-17-3にコンクリート面の素地ごしらえに左官の歩掛かりがある。
 第18節 内外装 2.標準歩掛かり 壁紙素地ごしらえ(コンクリート面)表A18-8-8に左官の歩掛かりがある。
「積基」塗装、内外装に下地調整塗りの左官の歩係りがあって、左官に下地調整の歩係りが無いのはおかしいと思う。
 仕上塗材仕上げ(吹付)は、かって左官がセメント系リシン吹付け等で施工していたが、現代は素材、施工技術も進化し、種類も豊富であり、左官の技能とは違う面がある。
金鏝を使用する下地調整は仕上塗材仕上げから切り離して、モルタル塗りに薄塗りモルタルとして含めるよう希望したい。
 又下地調整は三段階ではなく、厚みは10mmと規定されれば歩掛かりも決められるし、コンクリート打ち放し仕上げの躯体修整の問題は殆ど発生しないと思う。
そして下地調整の塗り厚みが10mmであれば下地調整の名称は変であり、薄塗りモルタル塗と称し、現在の仕上塗材仕上げの中でなく、「共仕」左官工事 2節 モルタル塗に含めるべきであろう、一考をお願いしたい。
★ 壁紙張り、塗装下地の素地ごしらえ、下地調整塗り
 壁紙張り、塗装下地の素地ごしらえ、下地調整塗りは下地調整材C-1又はC-2を全面に塗り付けて平滑にするとあり、目違い除きのサンダー掛けはない。
 この工事は塗装工事、内装工事に含まれるのだが「積基」では左官業者がすることとあり、歩掛りも決まっている。
C-1は0.5~1mm、C-2は1~3mmの塗り厚であり、下地調整塗りで仕上げられるような打ち放し仕上げの躯体は殆ど無く、100%躯体修整が必要となる。これも下地の躯体修整の費用の点で精算時に問題となるところである。
 又なぜに塗装工事、内装工事に左官がやる下地調整塗りが含まれているのかも疑問である。
C-1、C-2はセメント系の下地調整材で、塗装工のパテベラでは仕上げ不可能で左官の金鏝でしか仕上げられない素材であると思うので下地調整塗りは左官工事に含むべきと思います。
★ タイル下地コンクリート不陸補修
 「標準仕様書」タイル工事 施工 11.3.3ではタイル下地は左官でモルタル塗を行うと規定されている。
しかし建築工事管理指針に(以下「管指」)(建築工事管理指針は「標仕」の規定の意図を正しく伝えるための解説書であり、技術参考書)
タイル工事3節陶磁器質タイル張り 11.3.4 その他の工法 
(4)躯体コンクリートに直接タイル張りする工法として「直張り」が記載されており、タイル張り前にコンクリートの不陸補修を行う場合のモルタルもポリマーセメントモルタルを使用するとある。
陶磁器質タイル張り 11.3.3 施工 図11.3.12に「標仕」以外の工法として積上げ張りがあり、下地コンクリートに「直張り」工法が記載されている。
 タイル下地は「標仕」ではモルタル塗が仕様であるが、「標仕」の技術参考書「管指」に「直張り」の記載がある以上民間工事においてはコスト優先であり「直張り」に流れるのは仕方がないのかと思う。
 この場合タイル下地のコンクリートの処理は「管指」に不陸補修とあるのみで具体的な仕様の記載がないため施工基準がまちまちであり、サンダー掛けまでか、それとも部分薄塗り、全面薄塗りかで現場が混乱し、費用の点で精算時に問題が起きている。
★躯体修整・躯体直しの問題
 壁紙張り、塗装下地の素地ごしらえ、下地調整塗りは厚み0.5~3mmであり、それを施工するコンクリート打ち放し仕上げの平たんさの数値に適合するコンクリート躯体は100%完成することは無く「躯体直し、躯体修整」と一般に称して左官が施工しているが、費用の点で精算時大きな問題となっている。
 本来は躯体業者がコンクリート打ち放し仕上げという仕上げを施工しているのだから躯体業者が施工し、平たんさの数値に適合したコンクリート打ち放し仕上げを次工程の左官業者に提供するべきであろう。
 問題点は躯体業者に躯体修整の仕上げの技能は無い事であり、仕上げの技能の無い躯体業者にコンクリート打ち放し仕上げという、仕上げを施工させていることである。
又コンクリート打ち放し仕上げは規定の平たんさの精度が100%確保出来ず、左官が躯体修整しなければ打ち放し仕上げが完成しないことである。
 施工する前から補修が必要と認めている、又躯体業者が最善の努力しても規定の精度が確保出来ず、必ず左官の手直しが必要なコンクリート打ち放し仕上げは欠陥工法と言わざるを得ない。
この問題は非常に分かりにくく難しい問題である。
 簡単にいえば躯体業者のコンクリート打ち放し仕上げの仕上がり不具合の手直し、本来であれば躯体業者とか、他の業者がやるべき仕事を左官がやってコンクリート打ち放し仕上げを完成させているのであり、この問題を解決しない事には左官の未来はないと思うものである。
★ コンクリート打ち放し仕上げの最大の問題点
 コンクリート打ち放し仕上げの最大の問題点は左官の若年後継者にコンクリート打ち放し仕上げでは左官本来の塗り壁技能を習得させる事は不可能であり、技能継承・維持が困難になっていることである。
 日本の左官技能を習得するには、肉厚の厚い塗り付け鏝で厚みのある塗り壁を塗ってマスターするしかない。
下地調整は、塗り厚が薄いので肉厚の薄い鏝で仕上がり、肉厚の厚い鏝を使用することは無い。
ゴルフに例えれば厚い鏝はドライバー、アイアンであり、薄い鏝はパターであろう。
 現在の設計図書には厚みのある左官の塗り壁はないし、仕上げの壁も無い。
 現代の左官にはドライバー、アイアンを使用するフェアウエイも練習場も無く、パターが出来るグリーンのみで
ある。現代の左官はパターゴルファーともいえる。
 若年後継者の育成が叫ばれて久しいが左官の塗り壁が設計図書に無い、左官技能を教える事ができない設計図書上の問題は他職には無い問題点である。
★左官の未来の為に
 左官業界として考えたいことは左官は何の為に、何の目的の為に、何故左官は千年以上も建築、居住環境に壁を塗ってきたのかを考えてみたい。
左官の壁の原点は土壁、漆喰壁である。
 日本風土の気候に適合し、温帯モンスーン地帯特有の夏の高い湿気の気候から住む人を守れる調湿、呼吸機能のある土壁、漆喰壁を塗り、住の面から日本人の生命と健康を守り、火災から財産を守ってきたと思う。
同時に世界に類を見ない高度の技能と、塗り壁の完成された美で住む人、見る人に安らぎ、幸せ、喜びと感動を与えてきたのが左官の壁、技能であり、左官の使命ではなかったでしょうか。
 しかし残念ながら現在建築市場に出回っている仕上げの塗り壁は合成樹脂を混入したものが多く調湿、呼吸機能が少ない物が多く、又湿気で崩れやすい壁も多い。
 この状態は建材メーカーだけの責任ではないと思う。仕上げの塗り壁材に塗りやすい、施工しやすい、色むら等クレームの出ない、楽に塗れて仕上げやすい壁をメーカーに求めてきた左官業界にも責任の一端があろう。
合成樹脂を混入しない自然素材の石灰系の塗り壁材はひび割れ、白華現象による色ムラの発生を完全に防ぐ事は難しいので左官が嫌う傾向がある。
 健康志向、地球環境、省エネ問題の高まりの中で家を建てる一般ユーザーが本物の塗り壁、石灰系塗り壁を強く望んでも提供しない左官も多く見受けられるようである。
 調湿、呼吸機能のない、施工の楽な壁を左官業界は選択してきたことにより、左官としての誇り、使命を忘れてしまったとしか思えない。
左官の技能を維持継承し、誇りと使命を全うする為には調湿、呼吸する壁、環境を汚染しない100%自然素材の壁を建築、居住環境に増やしていく行動を左官一人一人が起こしていく事が大切であると思う。
国土交通省に先ずは打ち放し仕上げ、打ち放し面補修の明快な解決をお願いし、公共建築に日本人の明日の未来の為に本物の左官の壁、調湿、呼吸機能のある壁の復活を希望する次第である。
この点はコンクリート打ち放し仕上げが大好きな、設計業界、建設業界にも強くお願いしたい。
打ち放し仕上げの下地調整では日本の左官技能は覚える事は出来ないし
訓練校、練習場ではマスターは絶対不可能であり、現場で切れば血の出るような活きた壁を塗って覚えるしかないからである。
統計局の国勢調査によると左官人口は平成7年より毎年約6600人づつ減少している。
五年ごとの統計なのだが、平成22年度の左官人口は87400人である。
このまま手を拱いて、本物の塗り壁が建築に復活しなければ、左官人口は平成27年には5万人を割っていることだろう。
 
左官の平均年齢は60歳を既に超えている。
 世界に類の無い日本の左官の持つ技能の凄さ、素晴らしさ、又消滅した時の恐ろしさを官庁、設計、建設業界は本当に知っているとはとても思えない。