2014-09-05
左官工事問題点~設計図書から無くなった左官工事~
平成1年1月18日 株式会社根子左 代表取締役根子清 執筆
1.湿式工法から乾式工法に変化
施工の合理化、システム化の流れの中で左官分野の減少(1950年)
(塗壁、塗床から壁コンクリート直仕上げ、床コンクリート直仕上げへ)
- 乾式工法(床、壁コンクリート直仕上げ含む)で仕上げが完成しない、納まらない部分の取り合いモルタル塗り、(各種隙間埋め、シーリング目地の角造り、床の切り付け、コンクリート打ち放し仕上げの出隅、入り隅、角造り、床コンクリート直仕上げの不陸、傷埋め、穴埋めモルタル塗り)は現在の左官工事の大半であるが、この工事は設計図書上には無い工事である。
- 仕上げ表にモルタル塗り、漆喰、プラスター等の左官の塗り壁仕上げが皆無で左官技能者を必要としない設計図書が多い。
- A、B、C種打ち放し仕上げは仕上げ工事で有り(B種の吹き付けの下地調整を除き)左官技能者を必要としない仕上げ工事である。
- JASS15の左官工事が1998年1月に改訂になり、新しくコンクリート下地既調合セメントモルタル塗りが掲載されたが「JASS15・217頁、6.7他工事の下地つくりに、コンクリートの仕上がり精度がよくなると、セメントモルタル塗りを省略し、下地調整されたコンクリート面に直接、各種吹き付け材・セメントスタッコ・ローラ模様仕上げ材及び繊維壁材などを施工する方法が可能となるとある。コストを考えると現場では既調合セメントモルタル塗りは採用されることは少ない。
- 仕上げ表にモルタル塗りがある場合でも、JASS吹付、タイル、塗装、クロス仕上げの各種下地の、最初にコンクリート下地が有るため、施工時にコストダウンを考えると現実にはモルタル塗りからコンクリート打ち放し上げに変更される事が多い)
2.壁コンクリート打ち放し直仕上げ(A、B、C種)の補修工事
(吹付下地、塗装下地、クロス下地、タイル下地、素地仕上げ)
- コンクリート打ち放し仕上げA、B、C種の精度、程度が規定通り完成されることが無い。(100%近い)
- コンクリート打ち放し仕上げが仕上げ工事であるにも関わらず、躯体業者が施工する工事である。(コンクリート打ち放し仕上げが規定通り完成しない時、躯体業者のため、補修する技能を持っていない。)
- 壁コンクリート打ち放し仕上げは、本来そのままで仕上げであり、左官技能者を必要としない工法なのですが、実際にはそのままでは仕上げにはならず、100%近く左官技能者が全面薄塗、モルタル塗りを施工している。この工事を補修と呼んでいる。
- 素地仕上げ(A種)のコンクリート打放仕上げの基準が曖昧であり、検査する人の主観によりそれぞれに違うので、不具合が発生した場合その補修の程度の判断に困る事が多い。
3.壁タイル下地モルタル塗り
- 下地仕事であるので、左官技能としての仕上げの感性、目が育成、維持できない。
- 打ち放し、薄塗施工であっても、タイル割があるので現実には厚塗りになることが多い。(請負施工不可能)
4.床コンクリート直仕上げ
- 夏期、冬期で職人一人当たりの施工可能面積が違う(2倍程度)
- 施工がばらつきになる、単発施工である。
- 天候(雨、雪)により仕上げが不可能になることがある。
- 養生期間不足、(特に冬期間)仕上げ面に傷を付けられる。
- 出入口、散り廻りに施工法上不陸が出やすい。6)冬期間の作業時間が長時間(深夜か、明け方までかかる)の為、肉体的にきつい作業になる。
5.積算出来ない左官工事
- 現在左官工事として施工している仕事の大半が設計図書上に無い仕事である。
- 左官工事がいくら掛かるか解らないし、いつ終わるか、誰にも解らない。(工数、工程が把握できない)
- 現在左官工事として発生する工事の多くは他職種(型枠大工、土工、鉄筋、コンクリート圧送)の施工ミス(多くはコンクリート打ち放し仕上げ)によって発生した仕上げ工事の手直し工事が殆どである。
- 設計図書の多くが左官技能者を必要としない設計図書になっているが、施工する段階で左官技能者が必要とされている。
6.技能維持、後継者育成上の問題
- 現在の左官工事は壁コンクリート打ち放し補修、躯体造り、床コンクリート直仕上げの傷補修等の常用工事が殆どである。
- 追加工事(常用工事)が多い為請負にならない。(契約工事に対して30%~100%増になることもある)
- 仕上げ面が見えない、殆ど下地面の施工であるので仕上げの感性、目が育成、維持出来ない
- 常用工事、追加工事が契約工事とならないので、精算時、人工の歩切り精算になることが多い。(ゼネコンの不払いが多い)
- 左官の技能習得、維持、育成には仕上げの壁、床面を厚く塗る事が必要不可欠であるが、現在の設計図書には厚く塗る仕上げの塗り壁が皆無に近いので、技能維持、習得、育成が困難である。
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